「グリセリンはニキビの原因になる」と言うネット上の都市伝説の根拠を調べてみたら ~それ、日本人がお米を食べるから米の生産量を倍にすれば人口も倍になると言っているような話では?
お米を増産すれば日本の人口は増えるのか? みたいな話。
「グリセリンはアクネ菌のエサになるから、ニキビ肌にはよくない」
ネットやSNSで、こんな話を見かけることがあります。
確かに、ニキビと関わりのあるアクネ菌は、グリセリンを栄養源のひとつとして利用することができます。
ですから、
「アクネ菌はグリセリンを利用できる」
ここまでは本当です。
でも、
「だからグリセリン入りの化粧品を使うと、アクネ菌が増えてニキビになる」
となると、ちょっと話が飛んでいるんです。
日本人とお米にたとえてみると……
日本人の主食は、お米です。
では、日本のお米の生産量を2倍にしたら、日本の出生率も2倍になるでしょうか?
もちろん、そんなことはありませんよね。
「お米を食べる」ということと、「お米を増やせば人間も増える」ということは、まったく別の話です。
日本人はお米以外のものも食べてますし、経済状況や住環境、いろんな要因が複雑に絡みあって、出生率が決まってくるわけです。
菌も同じです。
「グリセリンを利用できる」
↓
「グリセリンを与えるとアクネ菌が増える」
↓
「グリセリン入り化粧品を使うとニキビが増える」
この3つは、それぞれ別の話なのです。
⭐️ 実際に調べてみると……
実際の研究でも、話はそんなに単純ではありません。
🔬2019年の研究では、アクネ菌をグリセリンのある環境とない環境で培養しました。
アクネ菌は確かにグリセリンを利用していました。
ところが、グリセリンがあっても、アクネ菌の数そのものには大きな違いがありませんでした。
つまり、
「グリセリンを食べた=アクネ菌が増えた」
ではないんですね。
さらに面白いのは、肌にはアクネ菌だけがいるわけではないこと
私たちの肌には、アクネ菌だけではなく、たくさんの種類の常在菌が一緒に暮らしています。
たとえば「表皮ブドウ球菌」という常在菌もいます。
この菌もグリセリンを利用します。
そして、なんと表皮ブドウ球菌がグリセリンを発酵して作った物質には、アクネ菌の増殖を抑える働きがあることも研究で確認されています。
つまり、
アクネ菌にとってグリセリンは利用できるもの。
でも、別の常在菌にとっても利用できるもの。
そして、その結果としてアクネ菌が抑えられることさえある。
皮膚の上は、一種類の菌だけで考えられるほど単純ではないんですね。
最近の研究では、もっと複雑なことが分かってきました。
🔬2025年には、化粧品によく使われる成分とアクネ菌の増殖について、7種類のアクネ菌を使った研究も発表されました。
ここでも、グリセリンを加えればアクネ菌が増える、という結果にはなっていません。
むしろ多くの菌では、グリセリンを加えると最初は増殖が抑えられ、その後の反応は菌によって違いました。
そして10%という高い濃度では、調べたすべての菌で増殖が抑えられています。
つまり、
同じアクネ菌でも種類によって違う。
グリセリンの濃度によっても違う。
一緒に暮らしている他の菌によっても違う。
ということなんです。
でも、
「グリセリンの多い化粧品を使ったら、ニキビや吹き出物が増えた気がする」
という方がいることまで否定する必要はありません。
グリセリンはとても優秀な保湿成分ですが、皮脂の多い方ですとベタつきを感じたり、過剰保湿になることがあります。
肌質や季節、そのときの皮脂量、そして化粧品全体の処方との相性によって、
「これはベタベタするな」
「過剰保湿で、吹き出物が出やすいな」
ということは十分あり得ます。
ただ、それをすべて
「グリセリンがアクネ菌のエサになって、アクネ菌が増えたから」
と説明できる科学的な根拠は、今のところありません。
⭐️一つの成分を「悪者」にしないで!
化粧品の世界では、ときどき一つの成分だけが「悪者」になってしまうことがあります。
でも、肌はそんなに単純ではありません。
ましてや、そこに暮らしている常在菌の世界はもっと複雑です。
私たちの肌の上には、🌏地球上の全人口にも匹敵するほどの数の微生物が暮らしているんです。
地球に住む人類と同じで、菌たちの利害関係は、複雑に絡み合って、共存したり、戦ったりして暮らしています。
だから、
「グリセリン入りだからニキビ肌に悪い」
「グリセリンフリーだからニキビ肌にいい」
と、成分一つだけで化粧品を判断しなくてもよいと思います。
実際に使ってベタつくなら、もっと軽いものを選ぶ。
使っていて肌の調子がいいなら、「グリセリンが入っているから」という理由だけでやめる必要もありません。
大切なのは、ひとつの成分を善玉・悪玉に分けることではなく、
その化粧品全体が、自分の肌に合っているかどうか。
そこを見てあげることではないでしょうか。
PS:食べ物の世界でも、似たようなことがありますよね。
たまご、コメ、油、肉、塩、小麦……。
ある時代には「体に悪い」と悪者にされ、しばらくすると今度は「実は体にいい!」とヒーロー食品のように返り咲いたりする。
同じ食べ物なのに、不思議なものです。
結局のところ、
何を信じるか。誰の話を信じるか。
それによっても、その成分や食品の見え方はずいぶん変わってしまうんですよね🤔
グリセリンも、ちょっと似たところがあるのかもしれません。
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参考文献
Funatsu O, et al. (2025)
Effects of common cosmetic ingredients on growth of dominant human skin inhabitant Cutibacterium acnes.
Anaerobe. 96:102999.
DOI: 10.1016/j.anaerobe.2025.102999
化粧品成分が7菌株のアクネ菌の増殖に与える影響を調べた研究。グリセリンへの反応は菌株や濃度によって異なり、10%グリセリンではすべての菌株で増殖が抑制された。
Sanford JA, et al. (2019)
Short-chain fatty acids from Cutibacterium acnes activate both a canonical and epigenetic inflammatory response in human sebocytes.
Journal of Immunology. 202(6):1767–1776.
DOI: 10.4049/jimmunol.1800893
アクネ菌がグリセリンを利用して作る代謝産物と炎症反応について調べた研究。グリセリンの有無によって、アクネ菌の菌数そのものには大きな違いが認められなかった。
Wang Y, et al. (2014)
Staphylococcus epidermidis in the human skin microbiome mediates fermentation to inhibit the growth of Propionibacterium acnes: implications of probiotics in acne vulgaris.
Applied Microbiology and Biotechnology. 98:411–424.
DOI: 10.1007/s00253-013-5394-8
表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌がグリセリンを発酵し、その代謝産物によってアクネ菌の増殖を抑えることを示した研究。
